WEEK神山|新しい「いつも」に出逢う

勝浦川流域フィールド講座 レポート 1

2025/06/12

こんにちは!WEEK神山いきもの担当の井上です。
(いきもの担当や僕の自己紹介はこちらのブログに書いてるのでぜひ読んでみてください→自己紹介ブログ

今回は、僕が今年度参加している「勝浦川流域フィールド講座」について書いていきます。

※勝浦川流域フィールド講座について
「生物多様性とくしま戦略」に基づき、生物多様性を伝達する人材(生物多様性リーダー)の育成を目的とし、勝浦川源流域から河口域までの野外フィールドを訪れ、科学的な知見を学ぶ場です。

WEEK神山ではこれまで、空石積みの修復や川づくりを通して宿周辺および神山町の風景について考えてきました。
(詳しくこちらにまとめているので気になった方はぜひ読んでみてください→風景をつくる宿プロジェクト

この風景を構成する要素の1つに「生き物」が挙げられ、生き物目線での良い風景をつくるためにはまず、徳島県内の生き物について把握する必要があります。この講座を通して、徳島の自然環境に精通している方々と出会い、知見を集めたいと考えています。

第1回 山・川・海・人のつながり

徳島大学の鎌田先生から、この講座に入る前段階として、今地球がどんな環境になっているのかについてお話をいただきました。

僕たちは地球環境が安定した状態を保てる限界(プラネタリー・バウンダリー)を越えてしまっている時代を生きていることを知りました。近年の多発する異常気象やすごい速さで生き物が絶滅している現状が物語っているのではないかと思います。

そんな地球環境を改善するべく、世界規模で自然環境を再興していく(ネイチャーポジティブ)目標が立てられており、各個人・企業が自然環境に目を向けた取り組みを実施していくことが望まれています。日本においても、2030年までに自然が豊かになるようにもっていくことが生物多様性国家戦略の目標として掲げられています。神山町においても鮎喰川の水生動物の増加、アユやウナギの天然遡上経路の確保など自然に対して何ができるのだろうと考えていく機会を設けていきたいです。

第2回 奥山と人の暮らし

勝浦川源流域の高丸山に訪れ、奥山の環境を見てきました。ここは勝浦川の水源地です。山に降った雨が浸透し、湧き出てゆき、やがて川となります。ここは下流域の水資源に関わる大切な場所です。

ブナ林が広がる綺麗な環境が広がっていました。管理されている広場みたいに感じるのはなぜだろう。

神山町では割と多くみられますが、全国的には絶滅危惧Ⅱ類に指定されている希少な「ユキモチソウ」も自生していました。

管理された広場のように感じた理由は、シカの食害で下草がほとんどないからだと気づきました。シカが好まない植物のみ残っていました。

高丸山では、下草を保全するためにネットが設置されており、ネット内は植物が繁茂していました。

シカの個体数が少なければ、ここはもっと歩きにくい環境になりそうです。

下草の消失は土砂の流出にも関係しているそうです。実際に斜面が崩れかけていました。神山町内においても多くのシカが道路脇でみられ、シカの個体数が多いことによる問題は把握しておくべき事象です。シカが悪いとか人間が悪いではなく、どんなバランスが地球にとって良いのかを個人が考えていきたいですね。

今回は、ブナの実生を防護ネットで囲ってきました。少し手を加えることで守られる自然があることが実感できました。ただ、プラスチックネットや鉄柵が点在する風景、設置後の処理も考えていかないといけないですね。

第3回 里川で遊んで、里川から学ぼう

勝浦川の支流「藤川谷川」に行ってきました。

午前中は、川塾のペペさんの指導を受けながらガサガサをしてきました。石の上はコケで滑りやすくバランス感覚と踏む場所の選択が難しかったです。

※ガサガサとは網を持って生き物を捕まえる行為の総称です。どんなところに魚や水生昆虫が生息しているのかを知ることができます。

30分間で約10種類の生き物が捕獲されました。葉っぱを切って巣をつくるトビケラの魅力など、講師の方々によるマニアックな生き物解説に皆さん興味津々でした。

お昼はアマゴの塩焼きをいただきました。これは養殖されたものだそうです。

午後は、徳島大学の河口先生の講座を受けてきました。ウナギの生活史はまだ未解明な部分もありますが、グアム沖で生まれフィリピン沖で黒潮に乗り長旅を経て日本にやってくるそうです。そんなウナギの個体数も減少傾向に。。。

「日本の漁業は放流に頼りがちですが、もっと環境改善に力を入れるべき」という言葉にその通りだなぁと感じました。なぜ減っているのかを知る必要がありますね。

また、我々消費者も食べる責任を持ち、目の前の食材がどのような経緯で育ったものなのかを理解することも環境改善への第一歩になります。

川岸に樹木が生えていることの重要性を学びました。日光を遮ることで河川水温の上昇を抑えることに加え、川の栄養源は落ち葉であり、それを分解する水生昆虫、それを食べる魚や動物がいることを知りました。また、川魚の餌の多くは、樹木から落下した陸上の虫たちであり山と川の繋がりの重要性を再認識しました。

まとめ

最初に述べたとおり、僕たちは地球環境の限界を超えてしまっている現代を生きています。まずはそれを知ることが大切であり、宿での滞在の中でちょっとだけ自然に目を向ける大切さをお伝えすることができればいいなぁと思いました。

奥山での植生の減少、川の歩き方など、本や人の話を聞くより体験から得る情報は記憶に残りやすかったです。講師の方々が楽しみながら、僕たちに伝えてくれる情報はいきいきしており、今後WEEK神山で開催を予定している「生き物カフェ」では僕が1番楽しそうに取り組みたいと思います。

近年、CO2排出量削減等の課題については多くの企業がさまざな取り組みを始めています。もちろん地球温暖化を抑制することも重要ですが、もっと身近な環境に目を向けた環境改善が求められている気がします。

人が少し手を入れることで守られる自然があることに気づいたので、小さな生態系を実験的につくり、宿の敷地内における生物多様性が向上していく様子を観察していきます。

各個人・企業が継続的に活動することができ、生物多様性を向上させる取り組みを生んでいくことが僕の目標です。

次回は、敷地内に新たに造成した「ビオトープ」について情報発信していきます。造成から2週間後、どんな生き物が集まってきているのか楽しみです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネタリー・バウンダリー(地球環境が安定した状態を保てる限界の範囲を示す概念)

自然には、もとの状態に戻ろうとする回復力が備わっています。しかし、限界を超えてしまうと地球に激しい変化が起こり、もとの状態には戻れない可能性があります。

地球環境が持続可能なレベルを越えないようにするための基準点として、9つのシステムが設定されています。そのうち、6つのシステムが安全な範囲を超えていると評価されています。

  • 気候変動(CO2):限界超え
  • 成層圏オゾン層の破壊(フロンなど):範囲内
  • 海洋酸性化(CO2が海に溶ける):範囲内
  • 生物圏の健全さ(生物多様性の低下):限界超え
  • 生物地球化学的循環(農薬による窒素やリンの流出):限界超え
  • 淡水利用(地下水や湖沼の淡水が枯渇):限界超え
  • 土地利用の変化(農地や都市の拡大):限界超え
  • 新規化学物質(プラスチックや農薬、放射性物質による汚染):限界超え
  • 大気エアロゾルによる負荷(健康被害):範囲内

こうみると話は大きく、一体私たち個人になにができるのだろうかと思ってしまいますね。まず、私たち個人に求められていることは、地球の限界を超えてしまっている時代を生きているという事実を知ることだと思います。そして、改善するためには「いつもどおり」から脱却する勇気がいると学びました。

個人的な見解として、「7.土地利用の変化」で農地の拡大に伴う環境負荷がありますが、ここは海外と日本において差があると感じました。

海外では原生林を切り開いて大規模な農場を作るため、環境への負荷が大きいと思います。日本では、里地里山における水田の減少による生物多様性の減少が指摘されており、一概に農地が悪影響を及ぼしているわけではなさそうです。収量を考慮し、土地と生き物に合った農業のやり方を模索したいですね!

ネイチャーポジティブの実現に向けて

ネイチャーポジティブ(自然再興)は、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることを意味します。

今、世界的に自然環境を改善しようとする動きが見られています!

日本では、2023年3月に閣議決定した生物多様性国家戦略2023-2030において、ネイチャーポジティブを達成するという目標が掲げられました。そのための一つの方法として、2030年までに陸域と海域の少なくとも30%以上を保全する「30 by 30」という目標が設定されました。日本の現状では、陸域の20.5%、海域の13.3%が保護地区とされています。

我々が30by30に貢献できる仕組みとしては、OECMに認定された「自然共生サイト=民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域のこと」を所持・管理していくことが挙げられます。徳島県および神山町でもこれから考えていく案件となりそうです。まだまだ道のりは長いですが、多様な団体および個人が環境に目を向けていく時代が作られていくことが望まれます。

第2回 5月11日(日)

この日は、高丸山の奥山に行ってきました。

猟友会の方のレクチャーによると、徳島県においてもシカの個体数が増加しているとのことでした。みなさんは、シカが増えて困ることと聞いて、何か思い当たりますか?

多くの方は、農作物への被害や車との接触リスク増加が思い当たるかもしれません。これは、人間生活への直接的な影響ですね。こうみると、シカが増えると困るなぁと思います。

生き物目線ではどうでしょうか。シカはあらゆる植物を食べるので、各地の山肌の植生が貧弱になっています。植物の多様性の減少は、昆虫やその他動物にも影響がでるためシカの個体数増加は生き物にとってもあまり好ましくない可能性があります。

 

写真

奥山は、シカが食べない植物のみが繁茂している状態になっていました。

 

写真

高丸山では、シカの食害から植物を守るネットが設置されています。

ネット内だけいろんな植物がワサワサ生えていました。

 

今回の活動を通して、人の手を加えることで守られる自然があることに気づかされました。

もっと身近な自然環境においても、生き物のためにちょっとだけ自然に手を加えていくことに意味がありそうです。

WEEK神山で行っている川づくりや石積みの活動で手を加えた環境にどのような生き物たちが棲んでいるのか気になります。今後、生物調査を実施してどんな成果があるのか見ていきたいと思います!皆さんにも共有できるように、調査結果も発信します!

宿泊予約